2011/12/22tom's diner
不安定でこわくてうつくしい音楽が好き。
バブル華やかなりし頃。TVから流れてくる音楽は、どれもこれも余韻も残さず過ぎ去るような無味無臭、可もなく不可もない音楽ばかりだった。よくよく聴いてみれば良曲もあったかもしれない。でも未就学児童にとってそんなのはどうでもいいことだった。CDプレイヤーなんてまだないし、レコードプレイヤーすらもうちにはなかった。耳に障らない音楽になんてこれっぽっちも興味がないし、今もそれは変わらない。
あの時代に流行った音楽を聴いても、思い出すのは装飾過多なテレビの画面ばかり。生活に染み込まない遠くの音楽が、肌の上でカタカタ鳴っているだけだ。つまらないつまらないつまらない。
その日もいつものごとく金銀まばゆいTVの画面を、なんの感情も持たずに眺めていた。否、好きなアニメ番組を待つ間のそわそわした時間だったかもしれないし、終わった後の余韻に浸っていた時かもしれない。唐突にその時間はやって来た。
まず一瞬の無音――静かな鼻歌のような、女の人の低い歌声。余計な楽器の音なんて何一つない、ただ声だけが、そこにあった。
私は唾を飲み込んで、耳をそばだてた。次のCMに変わった途端、今まで何も感じなかったありきたりなニューミュージックが、突然うるさい嫌なものに変わった。人生初の分け!隔て!
それから長らくこの曲が誰のなんていう曲なのかわからずに、たまに独りでぼそぼそ適当な英語で歌ったりなんやらしていたけれど、二十歳の時にようやく誰のなんて曲なのかわかった。CATVの音楽番組でチラッと流れたんだ。普段はTVに向かって話しかけたりなんかしないんだけれど、この時ばかりは「あっ!」って声出しちゃったよ。
いやあ音楽って、本当にいいもんですね。
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